『ミーン・ストリート』(73)、『タクシー•ドライパー』(76)といったスコセッシ作品で名を馳せ、『ピアノ・レッスン』(93) 、『スモーク』(95)などで稀代の名優へと上り詰めたハーヴェイ・カイテル。彼が『レザポア・ドッグス』と同じ1992年に主演した代表作にして悪魔的怪作が、テジタルリマスターの美しい映像で復活を果たした。コカイン、アルコール、買春、野球賭博、汚職と、悪徳の限りを尽くすニューヨーク市プロンクスの警部補LT。この映画史上希に見るアンチ・ヒーローが、善と悪、理性と欲望、信仰と背信の間で引き裂かれる様を丹念に追う本作は、神をも恐れぬショッキングなシーンの数々によって公開当時物議を醸すと同時に、批評家からはカトリシズムと贖罪を真っ向から描いた作品として高く評価された。全編にわたって強いアルコールに溺れているかのような酪町感。きらびやかなネオンにあぷり出された大都市の闇のリアルな描写。そしてなんといってもあらゆる罪をむき出しの肉体に引き受け、怒り、慟哭し、果てるまで爆走するハーヴェイ・カイテルの演技。その壮絶な映像体験は観る者の感覚を麻痺させ、倫理観を揺さぷり、やがて究極のクライマックスヘと導いていく。
監督はクリストファー•ウォーケン主演の『キング・オブ・ニューヨーク』(90)、『フューネラル』(96)、さらにはヴェネチア国際映画祭審査員特別賞受賞作『マリー~もうひとりのマリア~』(05)など、本国はもとより欧州で絶大な支持を集めるインティーズ映画界の重鎮、アベル・フェラーラ。一貫して聖と俗の葛藤を、暴力をもって描き続ける彼にとっても紛れもないマスターピースとして燦然と輝く本作。人間はどこまで堕ちることができるのか。地獄の世界にも神は存在するのか。そして魂の救済は誰の元にも訪れるのか。30年以上の時を超え、ついに奇跡の怪優と鬼才中の鬼才が放つ過激な傑作と対峙する時がやってきた。
STORY
ニューヨークの警部補LTは、よき家庭人としての顔も持ちながらもドラッグやセックスに溺れ、警官としても人間としてもあるまじき行為に明け暮れる男。ある日、教会の尼僧が何者かに強姦されるというむごたらしい事件が起こる。LTは野球賭博の借金をカパーしようと懸賞金5万ドル目当てに躍起になるが、自分を犯した犯人を許そうとする尼僧の気高さに触れて混乱に陥る。自らの悪行と崇高な信仰心の間で揺れるLTはある選択をするが……。